杉山文野

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2020.11.25インタビュー

杉山文野さんが語る、誰もが平等に生きられる社会の実現に必要なこと

新型コロナウィルスの影響により、ライフスタイルの見直しが進んでいる。それは「オフィス」や「住居」などのハード面に限らず、「自分らしい暮らしを送る」という価値観にも言えること。既存の固定概念にとらわれず、もっと自分らしく生きることが求められるようになった。中でも、「家庭の在り方」を見直すのは、多様性の時代において急務かもしれない。

2020年12月より日本財団が主催するオンデマンド動画配信プログラム「STARTLINE(スタートライン)」では、コロナ禍を経た新しい時代にまつわるさまざまなテーマを掲げ、有識者のトークセッションを開催する。

その一環として、LGBTQへの理解を促す活動をするトランスジェンダーの杉山文野(すぎやま・ふみの)さん、エッセイストの小島慶子(こじま・けいこ)さん、Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香(たにもと・ゆか)さんがトークセッションを行なった。テーマは『「あきらめない」ライフデザイン』。

そこで今回は、著書『元女子高生、パパになる』(文藝春秋)を上梓したばかりの杉山文野さんにご登場いただき、新しい家族のカタチとは何か、マイノリティの人たちが生きやすくなるために必要なことは何かなど、お話を伺った。

――『元女子高生、パパになる』を書くことになったきっかけを教えてください。

杉山さん(以下、敬称略):以前から本を書かないかというお話はいただいていたんですけど、書きたくてもなかなか時間が無くて。ただ、新型コロナウィルスの影響もあって仕事が減って、ポッカリと時間ができたんです。そこで、いまならじっくり書けるかも、と。

書くときに決めていたのは、徹底的にリアルに書くこと。前作『ダブルハッピネス』(講談社)を書いたときも、セックスのことや手術のことなど、本当は触れられたくない部分も全てさらけ出しました。結果、とてもリアルだと反響をいただいたんです。

当事者のリアルな情報に触れる機会が少ないということが差別や偏見を助長させてしまう一因なので、これはとても大事なことだと思っています。だから今回も、例えば精子提供や実際の子作りに関するエピソードなども包み隠さず書きました。

杉山文野 インタビュー01

――パートナーのご両親にも長年反対されていたエピソードもリアルでしたよね。

杉山:反対される気持ちも分からなくはないんです。ご両親からすればこれだけふつうの男性がいるのに、何もそんないばらの道を選ばなくてもいいだろうと。それまでは“ふつう”に結婚ができるはずだったのに、僕と付き合ったことで結婚も子どももつくれない未来が押し寄せてしまったのではないか。娘の幸せな未来が思い描けない不安から反対してしまう。

これは、多くのLGBTQ当事者がぶつかる壁なんです。お互い好きで付き合うけれど、両親に反対されて泣く泣く別れを選んでしまう。ただ、僕は往生際が悪かったんですね(笑)。絶対にどうにかなる、だから負けたくない、と粘り続けました。

――杉山さんが求めていた幸せは、異性愛者であれば当たり前に享受できるものばかりです。

杉山:そうなんです。でも、LGBTQだから諦めなければいけない。ただ、これは自分が諦めているのではなく、社会から“諦めさせられている”わけです。現状では不平等な扱いが基準となってしまっているので、声を上げても仕方ないと思い込んでいる当事者の方も多いですが、僕は声を上げることはとても大切だと思っています。

これは決してLGBTQだけに特別な権利を求めているわけではありません。「すべての国民は法のもとにみな平等」と謳っているにもかかわらず、結婚できる人とできない人がいる。このように社会構造そのものに差別が組み込まれてしまったままでは、日常生活における差別や偏見は無くなりません。その矛盾を解決し、基本的人権として機会の平等をつくるためにも、おかしいことにはおかしいと、声を上げる必要があると思っています。。

そもそも、選択肢が与えられて選ばないのと、最初から選択肢すらないのとではだいぶ意味が異なります。個人のライフスタイルの多様化と共に家族も多様化しているのに、制度が実社会の変化に追いついていないんです。ルール(制度)とリアル(実社会)があまりにもちぐはぐになっているのではないでしょうか。

これは同性婚に限らずですが、このちぐはぐ感を解決しなければ、みんなが生きづらくなってしまう。だからこそ、僕は選択肢を増やしていきたいんです。同性婚が可能になっても異性婚ができなくなるわけではありません。したい人はできるし、したくない人はしなくてもいい。機会の不平等を無くしたいだけなんです。

杉山文野 インタビュー02

――誰もが平等な選択肢を持てる社会を実現するために大事なことは何だと思いますか?

杉山:まずは一人ひとりが社会問題を“自分事化”することだと思います。例えば、LGBTQの問題って、異性愛者からすれば関係ないと思いがち。でも、もしも自分の子どもがLGBTQの当事者だったとき、その子に対して「お前はマイノリティなんだから幸せになれなくても仕方ない。我慢しなさい」って言えるのか、と。

そうじゃないですよね?障害者の問題だってそう。いまは健常者だとしても、明日事故に遭って車いすに乗ることになるかもしれない。自分がいつマイノリティ当事者になるかなんて、誰にも分からないんです。だからこそ、社会問題を“自分事化”する想像力を持つことが大切です。

――そんな活動をする上で、気を付けていること、意識していることはあるのでしょうか?

杉山:一番気を付けているのは、批判を批判しないことです。「分からない」と言われて「なんで分かってくれないんだ!」と、殴ったら殴り返すようなことをやっていたらきりがないですよね。以前は僕も「なんで社会は分かってくれないんだ!」と怒っていた時期もありましたが、よく考えてみると、逆に僕はどれだけ「社会」のことを分かっているのだろうと。そう考えると分からないことだらけでした。

であるならば、まずは「分からない」という社会のことを自分が分かってみようと考え直したんですよね。これまで自分が目を向けてこなかった社会の構造を知ることで、ではどうしたら社会にも分かってもらうことができるのかという道筋が見えてきたように感じています。

最近では少なくなりつつありますが、それでもまだあからさまに批判的な人もいます。そういう人に出会うと逆に燃えますね(笑)。これだけ批判するその背景には何があるのかな? 絶対この人を口説いてみせるぞ、と。

以前、LGBTQに批判的な男性がいたのですが、話してみるとLGBTQ当事者と話した経験がほとんどない人だったんですね。なので、批判的な視線があってもめげずに気さくに接し続けていたら、ある時、「俺はLGBTQは気持ち悪いって思っていたけど、知らなかっただけだったんだな」と言ってくれて、結果的にとてもアライ(LGBTQの支援者)になってくれたんです。いまでは僕が共同代表を務める東京レインボープライドのパレードで先頭を歩くくらい、僕らのことを応援してくれています。

杉山文野 インタビュー03

――『元女子高生、パパになる』でも書かれていましたが、“ふつう”って何だと思いますか?

杉山:“ふつう”というものは存在しないんだと思います。みんなそれぞれが思うスタンダードを持っているけれど、それはあくまでも自分の中だけにあるもので。だから、自分のスタンダードと相手のそれとはどれくらいズレているのかを認識して、そこでコミュニケーションを重ねてすり合わせていくのが大事ですよね。自分の物差しだけで計ってはいけない。

だって、自分がおいしいと感じる料理があったとして、それを相手も同じようにおいしいと感じるかなんて分からないじゃないですか。それなのに、「俺がおいしいと感じているんだからお前もおいしいはずだ!」と相手に強要するのが間違っているんです。

――乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)さんが書かれた『ヒゲとナプキン』(小学館)、そして『元女子高生、パパになる』。これら2冊はどんな風に読んでもらいたいですか?

杉山:『ヒゲとナプキン』のアイディアは、コルクの佐渡島(さどしま)さんとお話をしているときに生まれたんです。佐渡島さんが「世の中にはLGBTQのストーリーがまだまだ足りていない。誰もが知るような代表作があれば、もっと広がっていくと思うよ」と言われたのが、プロジェクトがスタートするきっかけでした。

たしかに、LGBTQの本というと、自分とは関係ない話題だと受け止めてしまう人は一定数います。でも、それを文学っていうエンターテインメントにすれば手に取りやすくなる。パレードを派手なお祭りにしているのも、自分とは関係ないと感じている人たちに「何か楽しそうだから行ってみようか」と思わせるのが狙いなんです。気軽に遊びに来てもらった結果、興味を持ってくれたら大成功ですよね。そこでLGBTQの小説を作ってみようと、乙武さんに相談しました。

そして『ヒゲとナプキン』を読んで、もしももっとLGBTQについて知りたくなったときは、『元女子高生、パパになる』も読んでもらいたい。やはり当事者のリアルをノンフィクションで届けることも大事ですからね。セットで読んでもらえると深く理解できると思いますし、もちろんどちらか片方でも良い。特にトランス男性のことを書いたストーリーはまだまだ少ないので、ぜひ知ってもらいたいです。さらに興味が湧いたら、イベントなどにも遊びに来てもらいたいですしね。

杉山文野 インタビュー04

――「STARTLINE」では『「あきらめない」ライフデザイン』と題して、小島慶子さん、谷本有香さんとトークセッションをされました。視聴者に向けて、メッセージをいただけますか?

杉山:小島さん、谷本さんとお話しできたのはすごく楽しかったですね。それぞれ異なる切り口でお話しできましたし、いろんな社会問題って実はつながっているんです。だから、さまざまな角度から捉えていただくことで、きっと社会問題をより“自分事化”しやすくなるんじゃないかな、と。そして、それが回り回って、自分の暮らしを豊かにすることにつながっていくことを知ってもらえるとうれしいですね。

杉山文野 インタビュー05

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

杉山:子どもが生まれたことで、人生がより立体的になったし、初めて長生きしたいと思うようになりました。そこで考えたのは、僕の子どもが大人になって夢を持ったときに、「日本人だから無理」「女の子だから無理」「親がLGBTQだから無理」というように、属性によって諦めなければいけないような社会にはしたくないということ。どんな属性を持っていたとしても、やりたいことに全力で取り組めるような社会をつくっていきたい。それがこの社会を生きる大人の責任だと思います。

もちろん、本人が乗り越えなければいけない壁もあると思います。ただ、無駄な壁は排除してあげたいじゃないですか。それは結果的に僕のためにもなると思いますし、僕のハッピーと社会のハッピーが比例するような生き方をしていきたいですね。

〈プロフィール〉杉山文野(すぎやま・ふみの)

1981年、東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。早稲田大学大学院教育学研究科修士課程終了。2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地でさまざまな社会問題と向き合う。日本最大のLGBTプライドパレードであるNPO法人東京レインボープライド共同代表理事や、日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ条例制定に関わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。2018 年、ゲイの親友から精子提供を受け、パートナーとの間に一児をもうける。 現在は親友を交えた3人で子育てに奮闘中。2020年10月28日に『ヒゲとナプキン』(小学館/原案)、2020年11月11日に『元女子高生、パパになる』(文藝春秋)を出版。

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「あきらめない」ライフデザイン ~これからの時代の「家族」とは、「家庭」とは~

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