荻上チキ

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2020.11.09インタビュー

荻上チキさんに聞く、新型コロナウイルスを境に変化する「日常」

テレワークの実施や”3密”の回避など、新型コロナウイルスの流行により、私たちの日常生活や経済活動はこれまでにない変化を余儀なくされている。新しい生活様式に光が当たる一方で、医療や福祉、教育をはじめとするさまざまな分野における課題も噴出している。

2020年12月から期間限定配信するオンデマンド動画配信プログラム「STARTLINE(スタートライン)」では、コロナ禍を経た新しい時代にまつわるさまざまなテーマを掲げ、有識者のトークセッションを開催する。

その一環として、評論家の荻上チキ(おぎうえ・ちき)さん、哲学者の國分功一郎(こくぶん・こういちろう)さん、上間陽子(うえま・ようこ)さんのトークセッションが決定。「それって「自己責任」?〜予測不可能な複雑社会を彷徨う自己責任論〜」をテーマに意見を交換する予定だ。

現在日本財団と、時事問題や政治問題をさまざまな切り口で取り上げるTBSラジオの番組「荻上チキ・Session」(別ウィンドウで開く)とのコラボレーションで展開中の特集「コロナ以後、社会をどう設計していくか?」(2020年6月~11月・毎月第1/最終木曜放送中・全11回予定)では、荻上さんがパーソナリティを務め、専門家らと共に新型コロナ禍における社会課題をどのように改善していくか意見を交換している。 

今回は、この特集で談論を深めたいテーマやこれからの課題、「STARTLINE」に寄せる期待について話を聞いた。

――特集「コロナ以後、社会をどう設計していくか?」は、どのような議論の場であることを目指していますか?

荻上チキ インタビュー01

荻上さん(以下、敬称略):現在、新型コロナウイルス流行後の社会の在り方を考える議論が、さまざまな方面でなされています。中にはまだ見ぬ未来を夢想するようなものもありますが、この特集が目指すのは「地に足の着いた」現実的な議論です。というのも「Session」という番組では2013年の放送開始から、障害者や在日外国人、LGBTといった社会的弱者と位置づけられる人たちの声を聞きながら、現代社会が抱える課題をテーブルに上げ、論じてきました。その視点から見ると、新型コロナ禍を機に持ち上がっている問題の多くは新しいものではなく、以前からあった課題がこれまでとは違う形で表面化している状態だと僕たちは考えます。

荻上チキ インタビュー02 乙武洋匡

例えば性風俗産業の従事者が、休校に対応する保護者支援制度から一時除外された問題がありました。これは以前からある職業差別の一例ですが、さらに新型コロナ禍においては感染症対策の名の下に「夜の街にいる人は自業自得」のような声が起こり、差別を後押ししてしまう面が見られました。つまり単に「新型コロナ以後」を切り取るだけでは論点が「夜の街」のリスクにずれてしまい、もともと社会に職業差別が存在している、という問題の本質を見誤る怖れがある。

荻上チキ インタビュー03 神保哲生

そこで今回の特集では、「政治」「働き方」「メディアの在り方」など論じられる内容に合わせ、以前からそれらのテーマを追いかけてきた専門家をゲストとして招き、過去の経緯を踏まえた上で「新型コロナ以降の変化」に着目。議論すべき課題を抽出しつつ、今後どのような手直しが必要になるのか、というポイントまでを現実的に可視化していくよう心掛けています。

――6月4日の特集開始から今までの放送内容を振り返り、”コロナ以降”の社会を考えるうえでのキーワードになるポイントを教えてください。

荻上:異なるテーマを掲げて話し合ったにも関わらず、どの回でも繰り返し登場する問題点が3つありました。1つが「権威主義」。社会に対して一定のリーダーシップを発揮しながらも、方向性に従わない人を排除する動きのことです。

今回のような感染症対策の現場においては、むやみに感染を広げてはいけない、という文脈で「ある程度、個人の自由が制約されるのはしょうがない」という雰囲気がまん延します。これは権威主義的な考えを持つ人にとって、この機に乗じて異なる意見を排除しやすくなる、という側面があります。例えば「こんなときにライブに出かけるなんておかしい」のように、他人の趣味や嗜好を軽視しても問題ないかのような言説がはびこるのもその一種。また「ステイホームは”家族”を守る」という提唱の仕方は、家族主義や家父長制を再生産する怖れを抱えています。さらに、市民権のない外国人はそもそも支援の対象にすらならない、というのも外国人を排除する発想と言えるでしょう。

2つ目は「設計主義」です。新型コロナ禍を機に、新しい生活様式を提唱したり、地方分権化を目指したりする動きに代表される、現状の課題に対して社会を最適化していこうとする考え方のことです。これは一見すると進歩的な立場に見えますが、本来このような社会変革は一定の合理性と市民の合意に基づき、検証を重ねた上で行われるべきものであるはずです。しかし「新型コロナウイルスに対応する」という名目で、一気に改革を進めようとする動きがある。これは現在の生活を続けている人たちの選択や多様性を軽視してしまうことにつながりかねません。

最後に、本来メディアというのは日々の報道を通じて、こういう権威主義・設計主義的な考えがはらんでいる危険性を意識しながら、政治や社会の動きを監視する役割を持っています。しかしながら、日本のマスメディアはもともと権威主義に抗いきれておらず、適切な監視機能を果たしきれていないのではないか、という問題も可視化されてきました。 今後、政治や教育など多岐にわたる分野の議論を深めていく上で、これらの3点がすべてに共通するキーワードであり、課題になるだろうと感じています。

――この特集を通じ、荻上さん自身の中で印象的だった発見はありましたか?

荻上チキ インタビュー04

荻上:「これって、そんなに怒ること?」のように、ゆるい認識のまま温存されている問題が社会にはいまだにたくさんあることが、新型コロナ禍を通じてよく分かりました。

例を挙げると、1人あたり10万円の特別定額給付金が支給されるとき、受給権者は世帯主となっていましたよね。個人ではなく世帯主にお金が渡ることでさまざまなきしみを生む可能性があるのですが、この方法がどう望ましいから採用されたのかはなかなか議論の対象になりません。

これが20年前なら「世帯主が受け取るべきだ」「お父さんにありがとうと言いましょう」のように、はっきりと家父長制的な発想を口にする人がたくさんいました。しかし現在はそういう言動がはばかられるようになった代わりに「世帯主支給のどこに問題があるのかピンとこない」という形で家父長制が温存されていく図式がある。このように、よく見えない課題は、社会のバグとして放置されたままになってしまうでしょう。

社会運動の言説の1つに「コンフリクト(紛争)理論」というものがあります。安定している社会においては現状に不満のない人たちが多数派となりますが、そこに対して「ここに不満がある」と少数派が声を上げると、社会に緊張やストレスが走り、対立や分断が可視化されます。コンフリクト理論の立場から見ると、この対立や分断は良いことなんです。というのも、対立や分断が可視化されておらず、足もとに誰がいるのか分からないまま無自覚に踏みつけ続けるのはいい社会とは言えません。声を上げて分断を見せつけることで、初めて問題を議題にのせることができ、解決へのきっかけも生まれてくる。

つまり「問題にピンとこない」状態は、社会課題が存在しないのではなく、これまで同様の状態が水面下で続いているだけ。そのような見過ごされた問題を一つ一つ見つけて、監視の扉をノックし、論点としていく作業が必要になります。僕たち報道メディアの大きな役割として、そうした意識で議題設定をし、今の社会秩序に対する不公正さを指摘していくのはもちろんなのですが、「どうせ世の中変わらないよね」という冷笑的・批判的な声に毒されることのないよう、「こんな公正な在り方にアップデートすることもできる」という可能性や選択肢をも提示していく必要がある、というのは強く感じています。

――今後の放送ではどのようなテーマを取り上げる予定でしょうか。

荻上チキ インタビュー05

荻上:これまでに触れたテーマをさらに深く掘り下げようと考えています。その論点の1つが「教育や学校をどのように再設計していくか」。新型コロナ禍により増加した教員の過剰労働や子どもの学力格差など、現場の問題は山積みです。また、以前から不登校の問題がありますが、緊急事態宣言の解除以降「いつもの日常に戻った」というムードに流されて、不登校児の存在そのものがなかったことにされかねない危機感を抱いています。 また、2011年に東京電力・福島第一原子力発電所事故が起こって以来、科学的なトピックを分かりやすく発信する「サイエンスコミュニケーション」や「リスクマネージメント」の在り方が注目されているので、新型コロナ禍をテーマにその議論も深めていきたいと考えています。

――STARTLINEでの特集総括に向け、来場者へのメッセージをお願いいたします。

荻上:「STARTLINE」のような交流の場では、一方的に総括の発表を行うのではなく、多くの人々からフィードバックをいただきたい、と考えています。「その問題には気付いていなかった」「今後取り上げなければ」という気付きが生まれる機会にしたい。想定外の質問も大歓迎なので、議論の場にぜひ刺激を加えていただけるとうれしいですね。

〈プロフィール〉荻上チキ(おぎうえ・ちき)

評論家。特定非営利活動法人「ストップいじめ!ナビ」代表理事。メディア論を中心に、政治・経済・社会問題まで幅広く論じる。著書に「日本の大問題――残酷な日本の未来を変える22の方法」(ダイヤモンド社)、「みらいめがね それでは息がつまるので」(共著:ヨシタケシンスケ、暮しの手帖社)などがある。メインパーソナリティを務めるラジオ番組「荻上チキ・Session」(TBSラジオ)は、2015年度・ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞、2016年度・番組としてギャラクシー賞・ラジオ部門大賞を受賞した。

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それって「自己責任」? 予測不可能な複雑社会を彷徨う自己責任論

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