隈研吾

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2020.11.09インタビュー

隈研吾さんに聞く、アフターコロナ禍における「人」と「空間」の新しい可能性

新型コロナウイルスの感染拡大を経て、これまで慣れ親しんだ「オフィス」や「家」といった人の集まる空間は、その機能と役割の見直しを迫られている。新たな日常に直面している私たちにとって、生きやすい空間の在り方とはいったいどのようなものだろうか。

2020年12月より日本財団が主催するオンデマンド動画配信プログラム「STARTLINE(スタートライン)」では、コロナ禍を経た新しい時代にまつわるさまざまなテーマを掲げ、有識者のトークセッションを開催する。

その一環として、建築家・隈研吾(くま・けんご)さんと株式会社サイボウズ社長・青野慶久さんのトークセッションが決定。「『人が集まる意味』を問い直す~時間と空間を再設計する~」をテーマに対談する。 そこで今回は隈研吾さんにご登場いただき、現在、建築を通じて感じている人々の価値観の変化や、これから街や建物に求められる新しい可能性、「STARTLINE」に寄せる期待について話を聞いた。

――新型コロナウイルスの流行というかつてない体験を経たいま、私たちの住まいやオフィスの在り方に、どのような変化が起こっていると感じていますか?

隈さん(以下、敬称略):コロナ禍以降、「人が集まることの価値」が変わってしまったように感じています。

以前の僕たちは、オフィスや学校といった同じ場所に集まり、空間を共有することで「仲間」を認識していた部分がありました。同じフロアに皆で集まって忙しそうに仕事をしていれば何となく「一体感」があり、それが「効率的」である気もしていた。

しかし外出自粛やステイホームをきっかけに、多くの人が「ネットにさえつながっていれば、どこにいても仕事ができる」という可能性に気が付きました。同じ場所に集まることと、効率の善し悪しは無関係だったのかもしれない、一度そう感じたら、オフィスビルのような狭い箱の中に押しこまれて働くことに疑問が湧いてくるのは当然、とも言えるでしょう。

そもそも、オフィスという箱の中に集まり、みんな並んで仕事をするスタイルが生まれたのは20世紀の初頭、つい最近のことです。それまで人が働く場所といえば、自宅とお店がくっついているなど、住むところと働くところが一体化した環境が主でした。

それを踏まえて人類の歴史を振り返ると、箱の中に多くの人を集めて働かせる現代のスタイルは、かなり異常な形態であったのかもしれません。本来ならテクノロジーの発展に合わせて、もっと違う進化もできたはずですが、私たちは「箱の中」にいる安心感や現状維持を好む惰性によって今日まで動こうとしなかった。

だから今は、コロナ禍によって生まれた新しい流れに合わせた建築の在り方を探していくのが楽しみなんです。

――コロナ禍を経た新しい建築、その在り方について現在抱いているイメージをお聞かせください。

隈研吾 インタビュー02

:例えば僕の建築設計事務所のヘッドオフィスは東京にありますが、担当しているプロジェクトは海外で20カ国ほど、国内でも山の中から離島までいろいろな場所に散らばりながら多数進行しています。

これら各地にあるサテライトがネットワークでスムーズにつながるなら、必ずしも拠点が東京にある必要はなくなります。さらに言うと、石垣島のサテライトに滞在しながらアメリカで進行するプロジェクトの図面を引いても問題ないわけです。

先ほど、1つの「箱の中」に集まる働き方が始まったのは20世紀だと述べましたが、何万年という人類の歴史をひもとくと、季節の変化に合わせて各地を移動する狩猟採取型の生活をしていた期間が本来はずっと長いのです。だから僕は、人間一人一人が真剣に心の声に耳を澄ましてみると、誰しも本音のところでは「箱の中になんかいたくない!」と感じているんじゃないか、と。

そういう本質的な感覚に対し、うちの事務所でやろうとしているサテライト型のネットワークオフィスなら、全員が絶えず移動をしながらも、根底には1つの理念を共有する、という形を生みだすことができる。これは新しい「狩猟採取型オフィスライフ」と言ってもいいんじゃないかな。

実際に地方のさまざまな地域がこの働き方に興味を持ち、ぜひネットワークを構築してほしい、というオファーも来ているんですよ。

――意思の疎通を図り、コミュニケーションを深める上で、同じ場所と時間を共有するほうが有利である、と考える人もいるかもしれません。ネットワーク化が進むことで、人間関係にはどんな変化の可能性があるのでしょう。

:同じ場所にいるから意思疎通しやすい、とは言い切れません。監視され、干渉される可能性も同様にあるはずで、それはコミュニケーションとは違いますよね。

以前はそれでも同じ箱の中に「何となく」一緒にいることで「何となく」仲間であるような気がして、関係性がつくられていた。しかしリモート化が進み、物理的に同じ場所と時間を共有できなくなると、その「何となく」の関係は成立しなくなります。むしろ積極的に、いま何をやっているのか、自分はどんなことが得意なのかなど自ら発信していかないと、存在を気付いてすらもらえなくなるかもしれません。

これまでとはむしろ真逆で、能動的に人と関わる必要が生まれ、どういう人と付き合うのか選択する意識も求められるでしょう。言わば「箱の外」とどう関係を構築するか、が重要なテーマになる。

先ほど「自分たちのオフィスをサテライト型ネットワークにするのも面白い」とお話ししましたが、僕たちはコロナ禍をきっかけに、Zoomを使って週に1度、パリ・北京・上海・香港と全世界に約300人いるスタッフ全員が参加する「朝礼兼ミーティング」を行うようになりました。

そこでは、世界各地で進行しているさまざまなプロジェクトの担当者が毎週代わる代わる登場し、取り組みの内容と進行状況を10分間の英語スピーチで全員に説明します。このスピーチが想像以上に「箱の外」に出るための訓練になっている、と気が付きました。

というのも、同じ国の人間だけが集まるグループで業務をしていると、目の前の仕事を進めることに終始しがちです。しかし文化や発想の異なる海外のメンバーに自分が担当する取り組みを伝えようとすると、国内の事情だけを追いかけてもダメで「このプロジェクトはグローバルな観点ではどういう価値を生むのか」という目線で物事を伝える必要に迫られます。これがまさに安心な「箱の中」から出て、「箱の外」にいる人たちに自分の独自性を伝える、ということです。

国内外バラバラの場所で働いている状況は今までと何も変わりません。しかし、どんな思いで何をしているのか共有し合うことで、これまでには感じたことのない一体感が生まれています。単に世界を行き来する、という従来の在り方とは異なる、「ネットワーク化による新しいグローバリゼーション」の可能性を感じる出来事でしたね。

――テクノロジーの力で、国境や場所を問わずに人がつながれるようになるとすれば、リアルな対人関係やコミュニティの役割とはどのようなものになっていくとお考えですか?

隈研吾 インタビュー03

:テクノロジーの急速な発展プロセスの中で「物理的な距離の近さは、いずれ人間にとって意味を持たなくなるかもしれない」と考えられていた面もあります。

しかしいざ高い技術を手に入れても、人間には「身体」があり、自然豊かな環境に行くと「心地良い」と感じたり、元気が出たりする。物理的にどこで暮らすか、というリアルな「場所」の概念は大切なんです。同時に、最近は水害や地震といった防災意識も高まっており、いざ被害に遭遇すると、近隣に住む者同士のリアルな助け合いやサポートは欠かせない力です。 つまりこれからはネットワークを通じてのリモートな関係性と、ご近所付き合いに代表される距離の近いリアルな関係性、両方のコミュニティに足をかけつつ、それぞれを使い分けていく技術が全ての人に求められるのではないでしょうか。

――「STARTLINE」では、株式会社サイボウズの青野慶久社長と対談します。トークセッションに寄せる期待と、観覧する視聴者へのメッセージをお願いいたします。

:20世紀の人類は「箱の中」に押し込められていましたけれど、いまようやく「箱の外」に出る時代が来た。その「箱の外」との関係を僕は空間的に考えているんだけど、新しいテクノロジーとどうコラボレーションするか、という目線も欠かせないものになるはずで、新時代のコミュニケーションツールをつくっている青野さんから、ぜひそのヒントをいただきたいですね。

視聴者の皆さんにお伝えしたいのは、これからは建築家がデザインした箱の中に押しこまれる必要はない、ということ。一人一人が働き方、住む場所、コミュニティも含めて自分でデザインする時代が来たからです。そういう意味で「これからは僕が、私が建築家なのだ」というポジティブな気持ちで、対談を楽しんでいただければ。

〈プロフィール〉隈研吾(くま・けんご)

建築家。東京大学 特別教授 名誉教授。幼少期より建築家を目指し、東京大学建築学科大学院、コロンビア大学客員研究員を経て、隈研吾建築都市設計事務所を設立。これまで20カ国を超える国々で建築を手がけ、国際的に権威のある賞を多数受賞。近著に「東京 TOKYO」(KADOKAWA)、「隈研吾による隈研吾」(だいわ文庫)、「変われ! 東京 自由で、ゆるくて、閉じない都市」(共著:清野由美、集英社新書)などがある。

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