園利一郎

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2020.12.17インタビュー

園利一郎さんに聞く、コロナ禍の中で感じる「教育」の可能性

新型コロナウイルスの感染拡大による臨時休校を経て、教育のオンライン化が急速に進んでいる。それにより、不登校や障害児など学校に居場所がなかった子どもにも個に応じた教育機会が得られやすくなった一方で、積極的不登校の増加や、経済的な理由によるネット環境格差、教育格差の拡大も懸念されている。

2020年12月1日より配信中の日本財団が主催するオンデマンド動画配信プログラム「STARTLINE(スタートライン)」では、コロナ禍×新しい時代にまつわる若者向けのさまざまなテーマを掲げた有識者のトークセッションをお届けしている。

その一環として、学校法人角川ドワンゴ学園でインターネットを活用して学べる通信制高校「N高等学校(以下、N高)」の園利一郎(その・りいちろう)さん、教育系NPO法人のLearning for All代表の李炯植(り・ひょんしぎ)さん、e-Education創業者の税所篤快(さいしょ・あつよし)さんのトークセッションを開催。「教育の未来地図 〜オンラインで広がる教育の選択肢、問われる学校の真価〜」をテーマに意見を交換する。

そこで今回は園利一郎さんにオンラインで取材を敢行。子どもや若者たちの多様化が進む中で求められる学校教育の在り方、学びの可能性についてお話を伺った。

――新型コロナウイルスの感染拡大は、教育現場にどのような変化をもたらしたと感じていらっしゃいますか。

園さん(以下、敬称略):以前は、通学を前提とする学校教育が常識であり、N高が取り組むオンライン教育に対しても批判的な意見を耳にすることがありました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、社会におけるオンラインでの学び、学習の捉え方もずいぶん変わってきたように感じます。

N高では、ICT(情報通信技術)ツールを活用したホームルームやワークショップ、課題解決型学習などのプログラムを展開しているのですが、教育関係者の方から「具体的にどのようにすればできますか?」「一緒に何かやれませんか?」と問い合わせをいただくことが増えてきました。

例えば、既存のオンライン型ロールプレイングゲームを活用し、ネット遠足を実施しています。オンラインのゲーム空間にみんなで集まり、一緒に冒険をするというものです。チャットで連絡を取り合ったり、記念写真を撮ったり。オンラインの世界でも友達と出会え、協働できるプログラムを展開しています。参加した生徒さんの満足度も高く、好評を得ています。

園利一郎 インタビュー01

――では、もともとオンライン教育に力を入れているN高には、新型コロナウイルスによる影響はそれほどなかったと?

園:いえ、N高だからといって全てをオンラインというわけではありません。ネットの高校だからこそリアルで行うプログラムも大切にしてきました。入学式だったり、オリエンテーションだったり、ネットがベースである分、リアルはN高にとって特別な体験なんです。

しかし、コロナの影響で2月頃からオンラインツールを活用して、授業をリモートでやっていきましょう、オンラインでいろんなことに取り組んでいきましょうという方針にし、これまでリアルで提供していた学習や場もできる限りオンライン上で提供するようにしています。

それまではリアルで実施していた体験学習やワークショップもオンライン化して対応しました。オンライン上での体験にすることも大変でしたが、それよりもリアルでできなくなる寂しさの方が強かったです。それは生徒さんも同じなんじゃないかなと思います。

毎年N高は文化祭を「ニコニコ超会議」というイベントの中で開催していたのですが、それもオンラインになってしまい、「寂しい」という声をよく聞きました。ネットの高校でもリアルで集まりたいという気持ちが強いんだなと、リアルな場の強度を改めて思い知りました。

――コロナ禍の中、N高が新たに取り組んだオンラインプログラムの中にはどのようなものがあったのでしょう。

園:プロジェクト型の職業体験をオンラインで実施しました。例えば、長野県小布施町にある創業200年を誇る栗菓子の老舗の桜井甘精堂さまにご協力いただき、新商品の開発に挑戦しながら、他社との協働や創造的思考を学習するというものです。

オンラインでつながる参加メンバーや桜井甘精堂の方、小布施町の方と一緒に、自宅に届いた「栗餡(栗ペースト)」を使って何にかけ合わせたらもっとおいしくなるのか、アイデアを出しながら新しい味の開発に取り組みました。

他には、岡山県倉敷にある大原美術館さまと一緒にオンライン上でアートイベントを企画するというプロジェクト型の学習も実施しました。生徒自身が対話型アート鑑賞や作品をキュレーションしたイベントの企画を通して、自分自身のものの見方や考え方など自己認識と他者理解を深めていくというものです。

この他にもさまざまな地域や事業者、専門家の方とオンライン上での学習を開催しました。実際に職場を見学することはできませんが、プロジェクトの一員としての職業体験を提供できたのではないかと考えます。

8月にはアメリカの名門スタンフォード大学が主催する2週間のオンラインサマースクールにも参加しました。N高では開校当初より、多様な文化・価値観に触れ、幅広い視野を身に付けるため、国際的な大学で世界中の中高生と交流し、学びを深める機会を設けてきました。

しかし、今年はコロナの影響で現地に行くことができなかったのでオンラインで参加することにしたのですが、日本にいながらスタンフォードの質の高い授業だけでなく、世界中から参加する優秀な高校生たちと交流できたことは、生徒さんたちにとっても価値のある経験になったのではないかと思います。

園利一郎 インタビュー02

――そういった取り組みの中で、N高が提供する学びに対し新たな課題の発見などありましたか。

園:N高は、引き続きネットを活用した新しい教育づくりに取り組んでいきますが、僕個人としては「社会と接続する教育」をより充実させ、幅広く提供していきたいと改めて思いました。

コロナ禍によりオンライン教育の可能性は広がりましたが、課題もあります。リアルで得られる体験や価値を、オンライン上で全て再現できるわけではありません。テクノロジーの力を駆使しながらも、多くの人たちにいろんな学びの形を届けていきたいと思っています。

――コロナ禍により、さまざまな事情で学校に居場所がなかった子どもたちも教育の機会が得られた一方で、ネット環境による教育格差の問題も露呈しました。このような状況を、園さんはどう感じていらっしゃいますか。

園:N高の生徒の中にもスマートフォンしか持っていない方もいます。我々が運営する課外学習の途中で通信制限がかかってしまったという話も聞いたことがあります。教育のオンライン化が進む中で、学校側でも誰もが無理なく学びを享受できるような通信環境の整備をする必要があるのではないかと思ったりもします。

一方で、現在N高には、約1万5,800人(2020年10月時点)の生徒さんが通っていますが、その中には沖縄や鹿児島などの島しょ部に住んでいる方もいらっしゃいます。そうした島嶼地域は人口が少なく、小中学校全員で数十人しかいないなど小規模になりがちです。生徒数が少ないことからクラブ活動や部活動の実施が困難です。

現在、沖縄県うるま市とそうした複数の小規模小中学校をネットでつないで放課後の部活動や課外学習を提供する新しい取り組みを始めています。ネット環境があれば、たとえ生徒数が少ない学校であっても、他の学校とオンラインでつながって一緒に取り組んでいくことができる。

だから、利用できるネットを活用した学習や学習環境を充実させて、それをいかに教育現場に生かしていくのか。そういった視点も大切なのではないかと考えます。

園利一郎 インタビュー03

――これまでのお話をふまえ、園さんはこれからの教育にどのような可能性を感じていらっしゃいますか。

園:他者との関係をつくるための社会技能や、ストレスや感情に対処していけるレジリエンスは、全日制の学校では休み時間や放課後など授業外の時間で育まれてきたように思います。コミュニティの中で生きるために大切な力を育んでいくのかなと。

デジタル教科書など学校のデジタルトランスフォーメーションの取り組みが活発になっていますが、オンライン上でもそうした生きていく上で大切な力を身に付けていけるコミュニティや学習環境をつくっていけたらいいなと思います。

N高でも、ネット部活やオンラインワークショップや職業体験、ネット遠足などいろいろ試していますが、まだまだ発展の余地はあります。僕個人としてはこうした領域に力を入れていきたいと考えています。

――STARTLINEのトークセッションに寄せる期待についてお聞かせください。

園:「家族・地域・学校」というテーマについてお話が聴けたらいいなと考えています。Learning for Allさんであれば、家庭や貧困という問題に直面することが多いのではないかと思います。

今回、トークセッションでお話するような「自立する力」や「21世紀型スキル」は、学校だけでも家庭だけでも身に付けられるものではないと思います。学校、家族、地域コミュニティがどのような環境を提供していけたらより良いのか、そんなことを皆さんとお話できればと思っています。

――最後に、セッションをご覧になる視聴者の方へメッセージをお願いいたします。

園:僕が高校生の頃、ほとんどのクラスメイトは携帯電話を持っていませんでした。自分が教育の仕事をするなんて思いもしませんでした。それから20年経って、ほとんどの人がスマートフォンを持ち、オンラインで学習することが普通な世の中になりました。

これから先も、激しい変化が続いていくと言われています。5年後、10年後はどうなっているんでしょうね。目の前のオンライン授業だけでなく、教育に関わる問題は、教育を提供する側だけで解決できるものではありません。年齢問わずみんなで、オンラインだからこそ提供できる学びについて一緒に考えていけるような機会になるとうれしいですね。

〈プロフィール〉園 利一郎(その・りいちろう)

学校法人角川ドワンゴ学園経験学習部長

株式会社ドワンゴ教育事業本部コンテンツ開発部担当部長

早稲田大学卒。ドワンゴで動画共有サービスniconicoやニコニコ超会議、闘会議等の宣伝広報の責任者として従事したのち、学校法人角川ドワンゴ学園にてN高等学校の立ち上げに参加。省庁や地方自治体と連携した教育事業や、N中等部やN高等学校の中高生に向けたワークショップやプロジェクト学習を通してレジリエンスやリーダーシップ、創造性などを身につけるプログラムやキャリア教育の開発等に取り組む。

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教育の未来地図 ~オンラインで広がる教育の選択肢、問われる学校の真価~

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