川鍋一朗

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2020.12.22インタビュー

日本交通・川鍋一朗会長に聞く、有事において必要なリーダーシップとは?

いまだ終わる兆しの見えない新型コロナ禍は、社会を幾度となく想定外の課題に立ち向かわせてきた。意思決定を迅速に行った組織とそうでない組織とでは命運が分かれるケースも起こりうるなど、このような危機下において高まるのがリーダーシップの重要性だ。

タクシー業界の最大手「日本交通」も新型コロナ禍における打撃を受けた会社の一つ。しかし、徹底した安全対策の実施に加え、医療従事者の送迎、軽症患者の移送専用車両の運行、タクシーによるデリバリーサービスへの参入など、世の中の動きに素早く対応しながら難局を乗り越えてきた。

オンデマンド動画配信プログラム「STARTLINE(スタートライン)」のセッション、「決断の裏側 ~前例のない危機を前に、リーダーはどう決断したか~」では、日本交通の会長である川鍋一朗(かわなべ・いちろう)さんと、大阪府知事の吉村洋文(よしむら・ひろふみ)さん、日本初・国内最大級のクラウドファウンディングサービス READYFORの代表取締役CEO 米良はるか(めら・はるか)さんが登壇、新型コロナ禍におけるリーダーとしての決断とその結果~現在について意見を交換した。

今回は川鍋さんにご登場いただき、有事におけるリーダーシップの在り方について話を伺った。

――今回の新型コロナウイルス流行による衝撃は社会のあちこちに及びましたが、日本交通にとって、現在までの新型コロナ禍の影響はどのようなものでしたか。

川鍋さん(以下、敬称略):人々に対し不要不急の移動を控える通達が出た影響で、タクシー利用者は最も厳しかった時期で8割減になりました。そのときは一瞬「この業界はもはや必要なくなってしまうのか」と気持ちが落ち込み、モチベーションを保てなくなりそうでしたね。

しかし緊急事態宣言の発出前に、国土交通省からタクシー業界に対して「緊急時でも事業の継続が求められる事業者」として、事業継続要請が出た。これまでも地震や台風などの災害時に、動かなくなった電車やバスの代わりにタクシーが利用されるケースは多く、我々も「最後の移動手段」という誇りを持ってきましたが、この要請が出たことで、タクシードライバーは社会を支える「エッセンシャルワーカー」(生活維持に欠かせない職業)なんだ、という認識が明確になり、力が湧いてきたのを覚えています。

5月に非常事態宣言が出てからは、だいたい通常の3~4割の稼働率で車両を動かしていましたが、当時は今よりもウイルスの全貌が分からなかったため、感染が恐ろしいから、と自主的に休む乗務員もいましたし、中には仕事を辞めてしまうケースもありました。

――過酷とも言える状況の中、タクシー業界内でも先駆けて軽症患者の移送や医療従事者の送迎といった、最前線での業務に積極的に取り組みました。その理由はどのようなものだったのでしょう。

川鍋:「徳を残そう」という言葉が日本交通の社是ですが、これまでの災害時と同様「社会の役に立つ」という信念があったことが大きいかもしれません。そもそものきっかけは4月に「事業継続要請」が出た時、東京都からタクシー事業者に対し、無症状者・軽症患者を宿泊施設に搬送する業務の打診がありました。ホンダが提供する、運転席と後部座席が完全に仕切られた特殊車両を運転する、という内容でしたが手を挙げる事業者がいなかった。そこに立候補させていただいたんです。

もちろんその業務も、乗務員の協力がなければ成り立ちません。しかし当社の場合、過去に東日本大震災の支援として福島方面に物資を届けたり、人の送迎をしたりする特殊車両の乗務員を社内で募った経験があり、その際には想定よりも多くの立候補者が集まりました。

ですから今回のような不測の事態でも、きっと「誰かの役に立てるなら」と燃える乗務員も当社にはいるのではないか、と考えたんです。結果的に20名の募集枠に対し、200人以上の乗務員から応募があり、順調に運行を始めることができました。

その後も患者の増加に伴い、医療従事者を含めた移送のニーズはどんどん増していきましたが、お客さまの安心・安全面を考えると一般車両を移送に利用するわけにはいきません。この問題に対し、日本財団から支援をいただいたことで、一般車両に感染予防の改造をして移送用車両に変える、といった対策を行うことができた。これは現場の支援を止めることなく実施するための大きな助けになりました。

川鍋一朗 インタビュー01

――東日本大震災の時も、今回の新型コロナ禍においても、「社会の役に立とう」と自らの意志で動く社員がいる。リーダーとして、そのような自主性はどのように育成しているのでしょうか。

川鍋:それは特定の教育の成果というよりも、培ってきた企業文化が大きいのだと思います。例えば弊社には「ゴールドタクシー」という資格があり、地理・接客接遇を習熟した無事故・無違反の優良乗務員がワンランク上のサービスを提供しています。

ゴールドの中には、小児MFA(小児救急救護法)プログラムなどの資格を有する乗務員が子どもたちを運ぶ「キッズタクシー」、介護の資格経験がある乗務員がご高齢の方やお体が不自由な方のお出かけをサポートする「サポートタクシー」、東京観光タクシー認定ドライバーによる「東京観光タクシー」といった、より専門的な3分野からなる「エキスパート・ドライバー・サービス」もあり、いずれもお客さまから高い信頼を獲得しています。

これらゴールドドライバー資格の取得や昇格・更新はスキルを点数化して評価し、判断していますが、そもそもこの資格に挑戦するかどうかはあくまで乗務員の自主性に任せています。当社では一般乗務員のサービス・挨拶・車内清掃については丁寧に指導しますが、本人が望まないのに上位資格の取得を勧めることはないんです。

エキスパート・ドライバーに至っては、観光の企画や介護、児童向けサービスまで、何をどう行うかは完全に乗務員に委ね、会社はその内容に一切口を出しません。つまり彼らは良いサービスとは何か自ら考え、実施し、信頼を獲得しているのです。

ゴールドドライバーになると車両上部についている行燈が金色に変わります。無線配車でも「ゴールド」は人気ですから、当然売上の向上にもつながるでしょう。自ら工夫したサービスでお客さまに喜んでいただければ、やりがいも感じられる。そういう努力をするほどに物心両面で充実する社風が、乗務員の自主性を育てているのではないでしょうか。

――新型コロナ禍のような前例のない危機において、組織の長所を発揮しながら新しい可能性に挑戦するために、どのようなリーダーシップの在り方を大切にしていますか?

川鍋:当社の社訓の中に「変化はコントロールできない。ただその先頭に立つのみ」という言葉があります。今回のコロナ禍はまさに「変化」そのものですが、これまでも時代の変化はありましたし、タクシー業界も常に変わっていかなくてはいけない。そのような状況で僕ができることは、自らが先頭に立って新しいことをやり、しっかりと結果を出すことです。

例えば2013年の秋に、AKB48が歌う『恋するフォーチュンクッキー』の楽曲に合わせて社員が踊る動画を撮り、210万回を超える再生回数(当時)を記録しました。さまざまなメディアからも注目をいただきましたが、これに代表されるような前例のない活動をすると、ポジティブに受け止める社員が2~3割、ネガティブに捉える社員が2~3割、というのが通常の反応です。このとき重要なのは、残る「どちらでもない」5~6割の社員の意識をどうポジティブに寄せていくか。これが社内の雰囲気を決定づけるカギになります。

彼ら5~6割が新しいことに前向きになる空気を醸成するには、先に述べた通り「結果を出す」しかありません。いかに普段から「この人がやるなら大丈夫だろう」という実績をつくっておくかが勝負だと思います。

川鍋一朗 インタビュー02

――「結果を出す」という答えはシンプルである反面、「結果」に至るまでにさまざまな課題を乗り越えることが想定されます。「結果を出す」ために心掛けている姿勢はどのようなものでしょうか。

川鍋:勝負の当たり外れは時の運。「結果」が出るかどうかは、いくら考えたところでやってみないと分からないことがほとんどです。だから、「球数を多く持つ=新しいことをどんどんやる」ということに尽きます。

というのも、一撃必殺のつもりで入念に準備した企画が外れるとリスクが大きい。そうなるよりは、挑戦の手を止めずにさまざまな企画を実施して、その中からうまく育ちそうなものを見定めてコミュニケーションを徹底的に深めていくほうが結果につながりやすい。それに多少失敗したところで、次々と新しいことをやり続けていれば、過去のことはすぐ忘れてもらえますから(笑)。

そうやっていくつかの結果を出していけば、自ら動かない中間層に対し「なんとなくいいな」という意識が芽生えて、会社全体のムードが前向きに変化してきます。こうなると、新しい取り組みもどんどん加速する。このことと同時に、協力しないネガティブな人を放置しない姿勢を見せて、“正直者がバカを見る”世界をつくらないことも非常に大切だと考えています。

――実際に、AIを活用した次世代タクシーアプリの開発など、多くの新しいアイデアを現在進行形で形にしていらっしゃいます。「新しいことをどんどんやる」ための秘訣とは?

川鍋:考えているだけでなく、行動することではないでしょうか。私は以前コンサルティング会社で働いていたので、ロジックを組み立てることには慣れています。しかし現実ではロジックツリーを書くよりも、いったんアイデアが閃いたならば、事情に詳しそうな人に1本電話をかける、など実際の行動を起こした方がよほど役に立つ。

そうやって行動を続けていくと、頭の中で考えていた10あるリスクのうち、8くらいは勝手に消えていってしまいます。ただ、そこで改めて強調されてきた残り2つのリスクに対しては、キチンと内容を分解しながら進めていく。

社員たちを見ていても、頭のいい人ほど「事前に懸念を解消してから進めよう」と考えすぎてしまう傾向があるように感じます。しかし結果を出している気鋭の起業家たちと話をすると、その多くがロジカルな分析に固執せず「進めば分かる」の姿勢で行動を続けており、いつも非常に刺激を受けます。

こうやってお話ししている僕自身も、新しいことを始める時にはいまだに抵抗感が無くなりません。周りの人が賢く、何でも知っているように見えて「こんなことを聞くのはカッコ悪いかな」と自己防衛の気持ちが出てくるんです。この恥ずかしさを消し去るのは難しいのですが、何とか自分を鼓舞しながら乗り越えて、一歩を踏み出す。その繰り返しです。

川鍋一朗 インタビュー03

――「STARTLINE」では、吉村洋文・大阪府知事、READYFORの米良はるか代表取締役との対談を交わしました。セッションを終え、視聴者へのメッセージをいただけますか?

川鍋:リーダーシップをテーマに、お2人とは非常に中身の濃い話ができたと思っています。だからこそ視聴者の皆さまにお伝えしたいのは「動画を観て終わり」ではなく実際に何か行動を始めてみてほしい、ということです。

例えば、最近の若いYouTuberたちを観ていても「お前なんて」と言われながらもやり続けて成功している人たちがたくさんいます。これが一昔前なら、才能がある一握りの人たちだけがメディアに出るだけ。YouTubeがなければチャンスすらもらえなかったかもしれません。しかしここ10年、20年のITツールの進化によって、自分一人でも多くの仲間を募ることができるようになりました。個人でも戦える時代になってきているんです。

ビジネスを始めるような場合でも、スマートフォンもクラウドもない時代と比較すると非常にやりやすい。特にデジタルネイティブと呼ばれる世代にとってはツールを使いこなす上で圧倒的に有利な時代ですから、若い人ほど恥ずかしさを忘れて挑戦を始めれば、かつてないほどのチャンスが広がっているのではないでしょうか。

また、デジタルの時代がやってきた今、僕たち大人世代がこれまで積み上げてきた実績は簡単に覆されます。ここで立ち止まっていればどんどん劣化していくばかり。しかし若手の行動原理を学んだ上で大人ならではの経験を発揮できれば、僕たち世代にしかできないことがまだまだできる。若者から大人まで、動画をきっかけに一歩を踏み出す「動く人」が一人でも増えることを願っています。

〈プロフィール〉川鍋一朗(かわなべ・いちろう)

日本交通株式会社 代表取締役会長。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBAを取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て、日本交通に入社。2005年代表取締役社長、2015年代表取締役会長に就任。また、タクシー関連アプリを始めとしたモビリティ産業にまつわるITサービスの提供を行う株式会社Mobility Technologiesの会長としてタクシー業界の改革に尽力している。東京ハイヤー・タクシー協会会長、全国ハイヤー・タクシー連合会会長。

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