外山健太郎

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2020.12.09インタビュー

外山健太郎さんに問う、豊かな働き方を実現するテクノロジーの可能性

新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークの導入が加速するなど、テクノロジーはさまざまな側面で仕事の効率化を助けている。しかし私たちの働き方には長時間労働や過労死、仕事と育児・介護の両立といった、改善すべき課題も残されているのが現状だ。自由に、幸せに、豊かに働く、そんな未来のためにテクノロジーができることとは。また、それらを活用する私たち人間にはいったい何ができるのか。

12月より日本財団が主催するオンデマンド動画配信プログラム「STARTLINE(スタートライン)」では、コロナ禍を経た新しい時代にまつわるさまざまなテーマを掲げ、有識者のトークセッションをお届けする。

その一環であるセッション「テクノロジーは働き方を変えられない ~『Zoomの上座はどこか』問題~」では、テクノロジーと人間との関係性を研究するミシガン大学 情報学部 教授・外山健太郎(とやま・けんたろう)さんと、離れた空間同士をつなぐ新体験を提供するベンチャー企業 tonariのCEO・Taj Campbell(タージ・キャンベル)さんが登壇。 映画コメンテーターでタレントのLiLiCoさんがファシリテーターを務め、意見を交換する。

今回は外山さんにご登場いただき、技術者・研究者の立場から、テクノロジーを使って豊かな働き方を実現するためのヒントを伺った。

――新型コロナウイルスの流行は、在宅勤務の推進や通勤ラッシュの軽減といったさまざまな変化を日本にもたらしました。外山さんの暮らすアメリカではコロナ禍が社会にどのような影響を与えたのでしょうか。

外山さん(以下、敬称略):アメリカも日本同様、職場に人がいなくなり、一気にZoomなどのビデオ通話を使ったコミュニケーションに移行しました。もし今回のコロナ禍が10年前に起こっていたならば、これほどスムーズに在宅勤務を導入するのは難しかったかもしれません。ちょうど良いタイミングでテクノロジーの進化が間に合った、という印象がありますね。

私が教授を務めるミシガン大学でも、授業は全てZoomに切り替わりました。このような状況でも学ぶ機会が失われない良さはあるのですが、対面で講義するような熱量をオンライン上で生みだすのはなかなかに難しく、まだ四苦八苦しているところです。

――Zoomを使ったインタラクティブな授業と、実際に学生たちと顔を合わせて行う授業とでは、どのような点で特徴が異なるのでしょう?

外山:例えばディスカッションを行う場合、Zoomではスムーズな会話の重なりを作るのが難しく、 一人ひとりの個別の発表のようになりがち。深い対話まで到達しにくい傾向があります。また対面での授業は通常3時間でしたが、ビデオ通話では画面を見るのも、話し手の言葉を聞くのにも集中する必要があるせいか、3時間続けると僕も生徒たちもヘトヘトです。遠隔地にいる人同士のコミュニケーションを助けるテレプレゼンス技術が登場してから30~40年は経つと思いますが、実際の対面と同じような相互作用を生みだすまでには至っていないのだな、と実感しました。

そんな苦労もある一方で、対面ではシャイで発言できなかった学生が、チャットなどのデジタルツールを介することで積極的に対話に参加するようなケースも見られます。こうした教育の面だけを切り取ってみても、テクノロジーの活用にはまだまだ進化の余地があることを感じています。

――外山さんの著書『テクノロジーは貧困を救わない』において、「テクノロジーの一番の効果は人間の能力を増強すること」で、「テクノロジーを役立てるのは人間の意志であり、テクノロジーが変化を起こせるのかは、人間の既存の能力によって決まる」と述べられています。これについてもう少し詳しく教えていただけますか。

外山:普段からパソコンやスマホを活用している人にとっては、テクノロジーは暮らしの向上に大変役立つもの。だから誰にでもプラスの作用を与えるだろう、と発想しがちです。しかし実際のところは同じテクノロジーを用いても、人によってもたらされる結果は異なります。

例えばSNSは「コミュニケーションを広げたい」と思って使う人と「仲のいい人だけとつながりたい」と思って使う人では得られる効果が違いますよね。住んでいる場所や時間を問わずにコミュニケーションを取ることができる一方で、そこにばかり時間を取られると家族や友人以外の人たちと出会い、交流する機会が減る可能性もある。それは「テクノロジーによって貴重な社会経験が失われる」と表現することもできます。

これこそがテクノロジーがもたらす「人間の能力の増強・増幅」であり、必ずしもプラスに働くわけではなく、むしろ「格差の拡大」になるおそれをはらんでいる。日本ではZoomでも「上座」や「退席の順序」にこだわる人がいたり、自宅での働きぶりを確認するために常時カメラをオンラインにすることを求める人がいたりする、と聞きましたが、それも普段からの意識がテクノロジーを通じて増強され、表に出てきている、と言えるのかもしれません。

――テクノロジーがもたらす可能性をプラスの方向に生かしていくためには、私たち人間にどのような能力・意識が必要なのでしょうか。

外山:「心(Heart)」「知性(Mind)」「意志(Will)」というのが3つの大切な要素で、これらが全て揃わないと優れた技術も良い結果を導くことはできないだろうことが研究で分かってきました。

たとえばアメリカの教育現場の事例ですが、教育への予算不足や教師の人員不足を解消するための方策として、全ての学生にタブレットを配布しよう、という動きがあります。このように、もともとの組織的な問題点をテクノロジーで解消しようとするのは最近よく見られる傾向なのですが、教科書を与えるだけで学びにはならないように、タブレットを渡すだけでは教育になりませんよね。

この場合、テクノロジーの力を活用するには、まず教育現場にいる人たちが、生徒たちに「良い教育を与えたい」という「心」を持っている、というのが大前提です。そして彼らに一定の「知性」がなければそもそも教えることも、ツールを使いこなすこともできない。さらに、ビジョンを実現するための実行力と行った「意志」も必要となるでしょう。この3つの要素が揃って初めて、多くの学生に学習機会を与えるため、タブレットというテクノロジーがプラスに活用されるのだと思います。

――テクノロジーをプラスに活用する、人の「心・知性・意志」は、どのような仕組みで伸ばしていけると考えていますか。

外山:「違和感を追うこと」「楽をしないこと」が重要だと思っています。そもそも人は、自分の持つ欲望が満たされていないと、他者や社会のことを考える余裕ができません。飢餓や貧困が分かりやすい例ですが、誇りを持てない仕事を続けて精神的に不満を抱えている、なども同様です。

そのため、まずは日常生活や仕事に抱えている違和感があるなら、心の中を見て見ぬふりすることなく、ちゃんと気が付くこと。そして本当にしたいことは何なのかを真剣に考えることです。方向が見えてきたのなら、環境や習慣を変えることを面倒がらず、最も魅力を感じる方向に進んでいけるように行動する。

というのも、人が自分自身を磨き「成長したい」と努力するのは、叶えたい目標があるからで、その原動力は「惹かれる」という気持ちです。そういう真の欲望を追っていくことで心も満たされますし、そこで初めて周囲の状況に目を向けられるようになる。社会一般をより良くすることを考えられるのはその後です。

ここ20~30年の世界的な傾向として、社会問題を解決するための豊かな発想とテクノロジー技術を持った新興企業がどんどん表れていますが、それは経済を伸ばすという時代が終わり、豊かな暮らしができる満たされた人々が増え、他者や社会に目が向くようになり始めたのではないでしょうか。

――ここまでを振り返り、私たちが自由で豊かな働き方を実現する上で、今後テクノロジーがどのような役割を果たすことを想像していますか?

外山:それには、そもそも私たち自身が「豊かな働き方とは何であろうか」というのをきちんと考える必要がありますよね。私は日本に戻るたびに感じるのですが、これだけ経済が発展している国であるにもかかわらず、日本人は「仕事をしなければいけない」という感覚が強く、働き過ぎる傾向があるのではないでしょうか。

そこにテクノロジーを持ち込んだところで、仕事ははかどると思いますが、果たして「人生」と捉えたときに楽しく、豊かであるのか。日本は同調圧力の強い社会だと思いますし、そこでは周囲のペースに合わせて生きるほうが楽なのかもしれない。私自身の中にも「楽をしたい」という気持ちと「成長し、自分の可能性を伸ばしたい」という気持ち、両方があり、いつも心の中で競い合っています。でも、楽であることは「豊かさ」を生みだすのか。これについて私たちは個人として、社会としてもっと目を向ける必要があると思います。

――「STARTLINE」では、tonariのTaj Campbell CEOと対談します。セッションに寄せる期待と、視聴者へのメッセージをいただけますか?

外山:技術という面だけ見れば、私たちは大変豊かな社会に暮らしています。でもそこで「人間として」豊かな生き方は可能なのか、そしてその豊かな暮らしとテクノロジーとの関係は何なのかを、視聴者の皆さんとも一緒に考えていく場になればと思います。

〈プロフィール〉外山健太郎(とやま・けんたろう)

ミシガン大学 情報学部 教授。1969年東京生まれ。小学生のときに渡米し、1991年ハーバード大学物理学部卒業。1998年エール大学コンピューター・サイエンス専攻博士課程修了。1998年にマイクロソフト・リサーチに入所、研究員を経て2009年までマイクロソフト・リサーチ・インド副所長。2012年~現在、マサチューセッツ工科大学ダライ・ラマ・センター・フェロー。著書に『テクノロジーは貧困を救わない』(みすず書房)がある。

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